ICTを活用し「教える授業」から「学び合う授業」へ
学習者を中心に考えた授業の意義を伝えていきたい

栃木県宇都宮市では、NTTコミュニケーションズが提供するクラウド型プラットフォーム「まなびポケット」と、端末、端末管理ツールをパッケージ化した「GIGAスクールパック」を2020年度から導入しています。パック内に含まれる、まなびポケット経由で利用可能な協働学習システム「スクールタクト」や映像授業の「eboard」等、複数の学習コンテンツをシングルサインオンで活用しています。宇都宮市のすべての児童生徒・教職員に端末が行き渡って約1年、宇都宮市教育委員会の大島指導主事に現在のICT活用状況やまなびポケットへの期待についてお話しを伺いました。

大島昌幸氏 宇都宮市教育委員会 教育センター
副主幹・指導主事 大島昌幸氏
教育委員会名
宇都宮市教育委員会
所在地
栃木県宇都宮市
市内学校数
94校
まなびポケット利用コンテンツ
スクールタクト、eboard 、BANSHOT、みんなでプログラミング、MEXCBT (利用予定 Adobe Creative Cloud Express)
インタビュー対象者
宇都宮市教育委員会 教育センター 副主幹・指導主事 大島昌幸氏

休校中でも学びを止めない、モデル校で「まなびポケット」の手応えを実感

2020年度から全国の小中学校でGIGAスクール構想が急ピッチで進められていますが、宇都宮市ではどのような構想を立てていますか?

宇都宮市では文部科学省のGIGAスクール構想を参考に、市独自のGIGAスクール構想を設けています。ステップ1〜3までの3段階の目標があり、ステップ1ではすべての児童生徒、教職員が1人1台端末を文具の一つとして、授業の内外で日常的に活用できるようにする。ステップ2では協働学習ソフトなどを活用した授業を行えるようにする。ステップ3では教科の学びをつなぎ、社会課題の解決に生かす、という目標設定を掲げています。

宇都宮市には小学校が69校、中学校が25校ありますが、令和3年3月にすべての小中学校で児童生徒、教職員に端末が行き渡りました。 文具の一つとして活用していくために、まずは写真やQRコードの読み取り、検索など簡単なことから始め、端末に慣れることに重点を置いてきました。令和3年5月時点では、多くの学校がステップ1の段階にいます。一方で、ICTが進んでいる一部の学校では、ステップ2の協働学習にステップアップしつつあります。これだけの学校数があるので、学校や教職員によって、どうしても使用頻度の差が出てしまうというのが課題ですね。

現在の宇都宮市のICTツールの利用状況について教えてください。

宇都宮市では、児童生徒・教職員が1人1台Chromebookを所持しています。Google Workspace for Educationはステップ1の基礎的な作業や協働学習の利用、まなびポケットは教材アプリの入り口として導入しています。 。その中でよく活用しているのがスクールタクトやeboardです。この2つについては令和3年7月の時点で教職員研修を6回実施し、活用を推進しています。Adobe Creative Cloud Expressはこれから各校で活用を予定しています。

まなびポケットを導入された経緯を教えてください。

やはり、新型コロナウィルスによる休校の影響が大きかったですね。令和2年2月に休校が始まった時、ICTモデル校だった陽東小学校で試験的にまなびポケットを導入しました。休校中でも学びを止めることなく、教職員と児童のコミュニケーションも円滑に取ることができ、現場では手応えを感じたようです。その後、全校で正式導入された6月頃には学校休業は終わっていましたが,陽東小学校では休校中に教師と児童が信頼をベースにつながり合う土壌ができていたため,レベルの高い1人1台端末の活用が進んでいきました。

まなびポケット画面
まなびポケットのわかりやすいホーム画面例

まなびポケット正式導入の決め手について教えてください。

試験導入の際には休校中だったこともあり、すぐに導入できるかが重要でした。GoogleやMicrosoftなどと違って、メールアドレスを発行せずにすぐに使えたこと、端末に無料でついていたことなどが大きかったですね。また、休校中でも「学びを止めない」という点で、スクールタクトやeboardなど学習コンテンツが充実していたところも決め手になりました。
その後、全校で導入するにあたっては、使いやすさ・見やすさを重視しました。まなびポケットはUIが分かりやすく、低学年でも使いやすいというのも導入を決めた理由の一つです。

スクールタクトを使った「振り返り」で子ども同士の交流が活発に

まなびポケットはどのように活用されていますか?

最も効果的に活用されていると感じるのが「授業の振り返り」です。今までの授業では、授業の最後に児童生徒が振り返りの文章を書き、それを回収した後で教師が読み、一人一人にフィードバックするという流れでした。それが、ICTを活用することによって、教師が児童生徒の振り返りを瞬時に把握できるだけでなく、児童生徒が振り返りをお互いに共有できるようになり、いいねボタンで賛意を示したり、意見や感想を送り合ったりすることができるようになりました。

以前は先に書き終えた児童生徒は時間を持て余していましたが、自分が書いた後に友達の感想を読んだり、コメントをつけたりすることができるので、振り返りをさらに進化させることができるようになりました。それによって授業が活性化し、デジタル化のミッションである「学習者主体の学び」に近づきつつあると実感しています。

スクールタクトの活用が一番多いとのことですが、どんな場面で活用されていますか?

最も効果的に活用されていると感じるのが「授業の振り返り」です。今までの授業では、子どもたちが先生に向けて文を書き、それを後で先生が読み、フィードバックするという流れでした。ICTを活用することによって、児童生徒同士で共有したものに対してお互いに感想を送り合えるようになったり、その場でクラス全員が振り返りを共有できたりするようになりました。

また、以前は先に書き終えた子は時間を持て余していましたが、自分が書いた後に友達の感想を読んだり、コメントをつけたりすることができるので、時間を有効に使うことができます。それによって授業が活性化し、デジタル化のミッションである「学習者主体の学び」が実現しつつあると実感しています。

sTのテンプレ画面
スクールタクトのテンプレート画面

一方で、現時点で課題はありますか?

とはいえ、ICTを積極的に活用することで、学習者を中心にした授業へと変換できているのは、まだ一部のICTが得意な 教職員に限られています。ですが、他の教職員たちも「ICTを活用して行こう」という動きが少しずつ出てきています。その入口として、スクールタクトのテンプレートがとても活躍しています。9000点以上用意されているテンプレートはさまざまな場面で活用できます。そのまま使う人もいれば、一部アレンジする人もいます。ICTにまだ慣れていない教職員が、最初に挑戦するツールとしてテンプレートは大変役に立ちます。

ただ現状は、まだ紙でやっていたことがデジタルに置き換わっただけという実態もあります。宇都宮市がICT導入により目指すところは授業の変革です。進んでいる学校では、授業の予習は児童生徒各自が家庭で行い、授業はそれらを生かした協働的な学びを中心としたものに変わりつつあります。こうした学校間の差をなくしていくために、市では25名のICT支援員をおおむね4校に1人配置し、児童生徒・教職員の端末操作支援や授業支援などをサポートしています。ICT支援員は月に一度集まり、各校から上がった声や課題を共有し合い、改善につなげています。

主体的な学びに必要なのは“安心感”

まなびポケットを導入されてから、生徒に何か変化はありましたか?

やはりスクールタクトを使っての「振り返り」の効果は大きいですね。振り返りをすることで、子ども同士の交流が盛んになり、「笑顔が増えた」と感じています。特に高学年になると、先生からの評価をもらうよりも、友達から「いいね!」や感想をもらうほうが嬉しいみたいですね。こうした活動を通じて、普段はあまり一緒にいない友達ともコメントのやりとりができ、それが学校生活への「安心感」につながっているように感じます。

先生が「仲良くしなさい」と言うよりも、子どもたちの中で自主的にできたつながりのほうが「安心感」を得られるのだと思います。どんな考えや感想を持ってもいいんだ。そう思えるから主体的な行動ができるようになる。主体的な行動を起こすには、この「安心感」が必要なのです。こうした交流から生まれた「安心感」の先に「主体的な学び」があるのだと感じています。

今後、まなびポケットにどのようなことを期待されていますか?

全校でまなびポケットを使い始めて1年が過ぎました。まだ使いこなせている状態にまではいっていませんが、今後はそれぞれの学校ができることをもっと増やしていけたらと思います。そのために、教育委員会でもフォローを強化していく意向です。

現時点での教材アプリも充実していますが、個人的にはデジタル教科書が学習eポータルとしてまなびポケットから入れるようになるといいなと思っています。また、学習履歴だけではなく、子どもたち同士のつながりを可視化できるようになる※と、心のケアにも使えるようになるのではないかと考えています。

データに基づいた教育指導を、と言われていますが、実際に解析できる教職員はごくわずかだと思います。ですが、「心の天気」というアプリが注目されているように、子どもたちの様子を知りたいという教職員は多いと思います。まずはそういうところから始めてみたほうが、学校には馴染むのではないかと考えています。それをまなびポケットが担ってくれるのではないかと期待しています。

今年度はどんな1年にしたいと考えていますか?

ICTを活用することで「授業が変わること」を伝えていく1年にしたいと思います。教職員 が問いを立て、きれいなノートを書くよう指導し、教職員がまとめを書くという授業は、そろそろ終わりにしなければいけません。

子どもたちはChromebookを手にしたので、教職員が教えなくても児童生徒同士が相互に学んだり、自分で調べれば分かることがたくさんあります。「教える授業」から「学び合う授業」へ。ICTを使えば、学習者を中心に考えた授業のやり方に変わっていく。その意義を考える1年にしたいですね。

※ スクールタクトでは、生徒同士のコメントのやり取りの回数などが可視化できる「発言マップ」機能がご利用いただけます。