授業も保護者への連絡もまなびポケットで。タブレット利用は学校現場のスタンダードに

他自治体に先駆けて、2020年10月に児童・生徒1人1台の端末整備を実現した東京都港区。すべての教員・児童・生徒に端末が行き渡り、まなびポケットを活用したタブレット授業がスタンダードになった今、次なるステージへと上がろうとしています。一足早くICT環境を実現させた港区のこれまでの取り組みと実際に活用してみて感じた手応え、そしてこれから強化したい点について、東京都港区教育委員会の富樫学指導主事にお話を伺いました。

東京都港区教育委員会 指導主事 富樫学氏
東京都港区教育委員会 指導主事 富樫学氏

教育委員会名
東京都港区教育委員会
所在地
東京都港区
区内学校数
小学校19校
中学校10校
まなびポケット利用コンテンツ(取材時2022年8月時点)
WEBQU、スクールタクト、ラインズeライブラリfor まなびポケット
インタビュー対象者
東京都港区教育委員会 指導主事 富樫学氏

他自治体に先駆けて日常的にタブレットを活用

はじめに港区のGIGAスクール構想実現へ向けてのこれまでの取り組みについて教えてください。

港区では2018年3月に策定した「港区情報化アクションプラン」に基づいて、電子黒板機能付きの大型提示装置の設置やWi-Fi通信環境の構築など、各校のICT環境の整備を進めてきました。その後、2020年10月に児童・生徒1人1台のタブレット端末整備を完了し、翌年の4月から国語・算数・数学のデジタル教科書の活用をスタート。新型コロナウイルスの感染が拡大した9月には、すべての小中学校でハイブリッド型のオンライン授業を実施し、コロナ禍でも学びを止めることなく、安心して学べる環境を実現することができました。そうできたのも、まなびポケットの「使いやすさ」が大きかったと感じています。

まなびポケットを導入された経緯を教えてください。

まず、モデル校の御成門中学校で実証的にまなびポケットを導入しました。すると、現場の先生方から「1つのIDでさまざまな学習コンテンツを活用できるのがいい」という声が多く上がり、とても好評を得ました。また、コロナ禍でいつ再び緊急事態宣言が発令されるか分からない中、学校が休校になった際にオンライン授業を行える体制を迅速に整えておく必要がありました。「誰でも簡単に使える」という点で、まなびポケットならその対応が可能と判断し、全校で導入する運びとなったのです。

実際、休校期間中もスムーズにオンラインと対面のハイブリッド授業に切り替えることができました。ここでの手応えにより、まなびポケットは今や学校生活に欠かせないものとして定着したように感じます。現在は授業支援ツールのみならず、保護者向けの連絡ツールとしても活用しています。

東京都港区教育委員会 指導主事 富樫学氏
東京都港区教育委員会 指導主事 富樫学氏

スクールタクトの一番の魅力は児童・生徒同士が考えを共有できること

まなびポケットでは主に何を活用されていますか?

授業に関して最も利用率が高いのはスクールタクトです。ツールとして非常に直感的で、先生も児童・生徒も使いやすいところが一番の魅力だと思います。先生は児童・生徒の考えを瞬時に手元で確認できるので、授業を展開していく上でとても有効に活用することができます。

すでにかなりの先生が使われていますが、スクールタクトには各教科の課題テンプレートが充実しているので、ICTに苦手意識を持っている先生にもはじめの一歩として利用するのにとても便利です。

また、これまでは先生が板書したことを児童・生徒がノートに書き写すという時間が必要でしたが、スクールタクトで課題を共有することでそれらの時間が短縮されたのも大きなメリットになっています。

スクールタクトを活用したことで、児童・生徒にどのような変化が見られるようになりましたか?

例えば中学生のケースで言うと、生徒一人ひとりの考えが把握できるようになったことが大きいと思います。中学生になると、思春期に入り、周りを気にして人前で発言するのを嫌がったり、ためらったりする生徒が増えてきます。けれど、そんな生徒もタブレットなら心理的なハードルが下がり、抵抗なく書き込めるようです。

これは小・中学校に限らずですが、これまでの集団授業では、発表することが好きな子や得意な子が多く発言をして授業を進める、という側面があったと思います。それがスクールタクトを活用することにより、普段なかなか発言ができなかった児童・生徒の声を拾えるようになったことは、とても大きな魅力に感じます。

また、児童・生徒にとっても、さまざまな考えや意見を共有できることは、多様性を育む点でとても有効です。特に港区の区立小中学校には、外国籍の児童・生徒も多く在籍することから、自分と異なるバックグラウンドをもつ友達がどのような考えを持っているのかを知ることができます。こうしたさまざまな考えや意見を共有し、認め合い、その上で自分はどう考えるか、というのが今の時代の教育には不可欠だと感じています。

スクールタクトで意見を共有する(サンプル画面)
スクールタクトで意見を共有する(サンプル画面)

スクールタクトによる学びの変化はありましたか?

スクールタクトの活用によって、授業の進め方は大きく変わってきています。板書や発表の時間が短縮された代わりに、児童・生徒はじっくり考えたり、クラスメイトと話し合ったりする時間がどの教科でも必ず入ってくるようになりました。そういう点において、港区が目指す主体的、協働的な学びが実現しつつあります。

先生の役割も「教える」から「子どもたちの考えをより深める」へと変わり、より中身の濃い授業になっています。スクールタクトは先生方のスタンダードになってきているといえます。

その他にもまなびポケットのコンテンツを積極的に活用されていますね。eライブラリやWEBQUを導入された理由を教えてください。

eライブラリは反復学習にとても適した学習ツールだと思います。「基本」「標準」「挑戦」のスモールステップで構成されているので、自主的に課題に取り組めるという点が魅力に感じました。活用の仕方は先生によっていろいろで、宿題で利用したり、授業中にグレードタイムを設けて各自レベルに応じて演習をしたり、復習として使ったりと各学級の実態に合わせて活用しています。

WEBQU(「学校生活意欲尺度」と「学級満足度尺度」をデータ化し、学校における不登校やいじめの防止、温かな人間関係づくりを目的とした学級支援ツール)に関しては、港区ではこれまで紙のhyper-QU(ハイパーキューユー)を実施していましたが、結果が返ってくるまでに1ヶ月以上も時間がかかるという課題を抱えていました。

学級集団は常に変化します。今起きている問題や課題をすぐに把握し、解決していかなければならない。つまり、スピードが重要なんです。WEBQUはインターネット環境を使い診断結果を即時に入手でき、児童・生徒個人やクラス全体の様子を把握することができるという点で、紙よりもメリットが大きいので、活用しない手はないと思いました。

ただ、この結果がすべてとは思っていません。子どもたちの気持ちや状況は日々変化しますので、あくまでも一つの観点として参考にしています。クラスで抱えている課題はいろいろですが、学級のタイプが見えてくるところが大きいと思います。でも何よりもいいのは、そのクラスの担任だけが知るのではなく、学年の先生や管理職も把握し、共有できるという点ですね。組織全体で把握できるというのが、大きな利点に感じます。

WEBQUを活用し、日々変化するクラスの様子を把握(サンプル画面)
WEBQUを活用し、日々変化するクラスの様子を把握(サンプル画面)

現場のニーズから、港区全校でまなびポケットの保護者向け機能を導入

保護者との連絡ツールとして、まなびポケットの保護者向け機能を港区全校で利用されているそうですが、導入に至った経緯を教えてください。

以前港区では、学校によってプリントだったり、連絡機能ツールを利用したりと保護者への連絡の方法が異なっていました。しかし、まなびポケットの導入を機に保護者向け機能を活用してはどうかと現場の先生方から声が上がり、検討することになりました。

また、港区は保護者の生活サイクルが多種多様で、保護者の中にもICTを活用した連絡を希望される方が多くいらっしゃいました。いつでもどこでも確認できる利便性や即時性を考えると、保護者向け機能を活用した方がよいと判断し、2022年4月から小中全校一斉に導入することになりました。

実際に導入してみて、いかがでしたか?

現場から非常に高い評価を得ています。やはり紙にはない迅速なやりとりや、時間に縛られないのがデジタルの良さかなと感じています。まだ始めたばかりなので結果を述べるまでには至りませんが、現時点では特にトラブルもなく活用しているようです。今後、各校の先生方にヒアリングをしていきたいと思います。

まなびポケットの保護者向け機能の連絡帳(サンプル画面)
まなびポケットの保護者向け機能の連絡帳(サンプル画面)

タブレット学習がスタンダードになった今、港区が目指すネクストGIGAとは?

こうしてお話を聞いていくと、すでに日常的にまなびポケットを活用されているようですね。よくICTの活用については、先生の得手不得手で活用頻度の差が出てしまうと聞きますが、港区の場合はどのようにして活用を広めていったのでしょうか?

港区ではICT活用推進のために、令和3年度に「GIGA×TEACHERS港区推進チーム」を発足しました。 こちらは港区の教員なら誰でも参加でき、参加表明した先生方でTeamsのグループを作り、各自の実践や研修内容を報告し合い、情報を共有しています。こうした情報によって、「こんなこともできるんだ」と授業のヒントになったり、「こんなことをやってみたい」「こんなことにも使えるのではないか」と新たなチャレンジにつながったりしているようです。現在は212名(取材時)の先生が参加していて、学校の垣根を越えた横のつながりが生まれています。

また、今年度からは教育研究会に新たに情報部会を作り、国語科や社会科といった教科部体と同じように授業実践の研究を行うことになりました。

タブレットを使った授業が当たり前になった今、新たに抱えている課題はありますか?

2021年12月よりタブレットの持ち帰りができるようになり、児童・生徒は学校だけでなく家庭でもタブレットが使用できるようになりました。子どもたちの生活に欠かせないものになった今、これまで以上に情報モラルに関する指導が重要だと考え、児童・生徒のみならず保護者や教職員を含めた意識啓発が急務となっています。

すでに子どもたちが作った「みなとインターネット子どもルール」や、教育委員会で発信しているタブレットルールなどがあるので、それらを活用しながら各校で指導を進めていきたいと考えています。保護者向けに講習会も実施していますが、港区はICT教育に関心が高い保護者の方が多く、こうした講習会の参加率が非常に高いのが特徴です。こうしたバックグランドを活かしながら 、さらに意識啓発を進めていきたいと考えています。

しかし、港区が目指しているのはそれだけにとどまりません。SNSなどの使い方といった安全なインターネット利用におけるルールやマナーを身につけることはもちろん大事ですが、それよりも高い視点を持ち、私たちが情報に囲まれている世の中でどう生きるかを考え続けていきたいと思います。

最後に港区GIGAスクール構想の今後の課題と展望をお聞かせください。

港区では次なるステージとして、「港区GIGAスクールタスクフォース」による学びの支援体制を強化していく意向です。具体的には先ほどお伝えした情報モラルを高めていくことと、授業改善のみならず教員の働き方改革の推進、ICT専門チームとの連携の強化が挙げられます。

港区GIGAスクールタスクフォースの配布資料より
港区GIGAスクールタスクフォースの配布資料より

今年度からICTの技術的な助言や提言、港区のGIGAスクール構想全般に対するアドバイスを行う教育情報参事官を任用しました。また、各コンテンツに関しては、専門の事業者がセキュリティアドバイザーとして、各校の教育ICT環境のセキュリティ面のアドバイスを行うなど、専門性の高い外部の力も借りています。

今後もまなびポケットをはじめとするICTコンテンツを活用しながら、生涯に渡って能動的に学び続けることができる子どもたちを育てる、新たな学校教育を目指していきたいと思います。

港区教育委員会