まなびポケットを入口に多様なコンテンツを導入、保護者機能も活用し学校の業務効率化を促進

東京都北区は「東京都北区GIGAスクール構想」を掲げ、2021年度に全児童・生徒へパソコンとタッチペンの配布が完了。同時に、NTTコミュニケーションズが提供するクラウド型プラットフォーム「まなびポケット」と端末管理ツールをパッケージ化した「GIGAスクールパック」を導入しました。また、時期を同じくして協働学習支援ツールの「スクールタクト」やドリル教材の「ラインズeライブラリ for まなびポケット」、その他多数の学習コンテンツもまなびポケット経由で導入しています。
パソコンに「きたコン」という愛称をつけ、パソコンの正しい活用方法を周知し、保護者とのやりとりの効率化などを図ったりしてきた北区。東京都北区教育委員会事務局 教育振興部 入江 久夫学び未来課長に、学校への支援体制や各機能の使用状況などについてお聞きしました。

東京都北区教育委員会事務局 教育振興部<br />
入江 久夫学び未来課長
東京都北区教育委員会事務局 教育振興部
入江 久夫学び未来課長

教育委員会名
東京都北区教育委員会
所在地
東京都北区
区内学校数
46校
まなびポケット利用コンテンツ(取材時2022年8月時点)
Adobe Creative Cloud Express、BANSHOT、eboard、Sagasokka!、事例で学ぶNetモラル for まなびポケット、事例で学ぶNetモラル eラーニング、スクールタクト、虹色ボックス for まなびポケット、みんなでプログラミング、ラインズeライブラリ for まなびポケット
インタビュー対象者
東京都北区教育委員会事務局 教育振興部 入江 久夫学び未来課長

一人1台端末実現とともに安心できるプラットフォームの導入を検討

東京都北区教育委員会事務局 教育振興部 入江 久夫学び未来課長

2020年度から全国の小中学校でGIGAスクール構想が急ピッチで進められていますが、東京都北区ではどのような構想を立てていますか?

北区のGIGAスクール構想は、当初は2023年を目標に全児童・生徒への一人1台端末の実現を目標にスタートしました。これは国のGIGAスクール構想と足並みを揃え、「Society5.0時代の学び」の実現と「学校ICT環境整備の状況」を世界標準に近付けることをねらいとして始動した取組でした。

しかし、2020年度に新型コロナウイルス感染症が拡大。緊急事態宣言での臨時休校や学校で感染者が出たことによる学級閉鎖が相次ぎ、児童・生徒の「学びを止めない」ことが重視されるようになりました。そこで、国の補助金を活用して補正予算を編成し、北区にある小学校34校・中学校12校の全児童・生徒へ前倒して端末を配備することになりました。

2021年4月には、全児童・生徒へパソコンとタッチペンの配布が完了。Wi-Fiなどの通信環境が整っていないご家庭には、モバイルルータの貸し出しもスタートしました。そして、端末の整備と同時に、「まなびポケット」の導入も行ったのです。

まなびポケットを導入した経緯を教えてください。

学校に来られない状況になったとしても「学びを止めない」ことを重視していたので、ご家庭との連絡ツールとして使えることや、家庭学習コンテンツが充実したプラットフォームであることが決め手となりました。それに加えて、課題を出したり、提出したりできること、あるいはオンライン学習で課題配信ができるコンテンツの活用なども期待しました。

また、特に大切にしたことは、不具合などが起きて学びがストップすることがないようなツールを選択することです。まなびポケットは他の自治体でも多く採用されており、安定的に利用できることも導入の大きな要素であったと思います。実際にNTTコミュニケーションズは機能などについての相談もしやすく、教職員に対する研修も柔軟に組んでくれて、安定した学びの基盤を提供いただいていると感じています。

「きたコン」の愛称で正しいICT活用を家庭にも周知

どのように推進を図っていきましたか。

大前提として、教育委員会から「こう使いなさい」と強い方針を示すのではなく、教員に負担がかからないよう穏やかな目標設定を各学校に提案していました。例えば、2学期までにこの機能を使ってみようなど、無理のない目標を立てて、細かく段階を踏んで進んでいきました。小さな成功体験を積み重ねていき、気が付いたら多くの教員がICTを使いこなせるようになったことで、自主的な活用も進みました。

ただし、教員をきちんとサポートすることは重要だと考えています。そのため、教育委員会ではいくつかの施策を実施。例えば、2021年度からエバンジェリストとして教員を12名任命し、活用方法などを指導する体制を整えました。月1回の月例会を開催し、授業研究を通して、授業における「きたコン」の効果的な活用について議論しています。

その成果として、エバンジェリストの教員と共にICT活用の授業実践事例を冊子にまとめた資料を、全教員へお届けする活動もしました。この冊子は、より現場の先生方が活用しやすい体裁に変えて、2022年度も発行する予定です。

さらに、退職された校長先生を教育情報化推進員に任命し、各校を巡回して、教員と授業実践を積み重ねていくよう後押ししています。2022年度から2名体制で取り組んでいます。

北区教育委員会が配布するリーフレット「きたコンマスターへの道!」北区教育委員会が配布するリーフレット
「きたコンマスターへの道!」

児童・生徒や保護者への理解はどう促していきましたか。

一人1台配られたパソコンに「きたコン」という愛称をつけて、学齢が低い児童でもすぐに親近感が持てるように発信を続けてきました。すでに児童・生徒だけでなく保護者にも「きたコン」が定着しており、これによって正しい使い方の周知などが浸透しやすい土壌となっていると感じています。

こうした働き掛けで、現在どの程度、GIGAスクールへの取組が達成できていると感じますか。

活用の差はありますが「パソコンを授業の中で触ってみる」という第一歩のチャレンジは多くの教員ができていると感じています。

現在は「Society 5.0」を見据えた、情報リテラシー教育に力を入れています。その第一段階には、情報モラル教育を据えています。2022年6月を「情報モラル月間」に指定し、全クラスで必ず月間中に1回は情報モラルの授業を行うよう促しました。

事例で学ぶNetモラル for まなびポケット(サンプル画面)事例で学ぶNetモラル for まなびポケット
(サンプル画面)

情報モラルの授業を実施するためのツールは教育委員会から提供するのでしょうか。

そうです。情報モラルの各分野について、それぞれの学齢でどういった学習コンテンツを使ったら有効かをマッピングした「情報モラル指導モデルカリキュラム(北区版)」を作成しました。まなびポケットの「事例で学ぶNetモラル for まなびポケット」も参考として活用しています。

情報モラル教育だけで1コマ取れない場合には、各教科等と一緒に学ぶような工夫も奨励しています。

保護者との連絡ツールとして活用し、学校の出欠連絡業務削減に

まなびポケットはどのように活用していますか。

最も多いのはチャンネル機能の活用です。教員から児童・生徒や保護者への連絡ツールとして利用しています。児童・生徒に対しては翌登校日の持ち物連絡などをし、保護者に対しては毎日の出欠連絡やお便りの配布に使用していることが多いですね。

特に、コロナ禍になって、ご家庭から学校への欠席連絡や体調不良についての相談が急増しました。保護者のニーズや学校からの要望を鑑みて、チャンネル機能で出欠連絡への対応が取れるようにしたことは非常に有効でした。

まなびポケットのチャンネル機能(サンプル画面)
まなびポケットのチャンネル機能
(サンプル画面)

チャンネル機能を学習ツールとしても活用していますか。

教員によっては、課題の配布や提出などにもチャンネル機能を活用しているようです。こうした使い方によって、ペーパーレス化や効率化なども図ることができているといえます。

また、新型コロナウイルス感染症の影響で、無症状でも登校できない児童・生徒に対しては、GoogleMeetのURLをチャンネル機能で送り、オンラインで授業に参加できるようにしている教員もいました。その際に、教員から「体調はどう?もし元気だったら、リンクから入ってみてね。」などのメッセージを添えて、児童・生徒も「はーい! 元気です!」と返事をしているような様子もありました。これは、「学びを止めない」という端末導入当初の目的に応じた活動であると同時に、学校と児童・生徒がコミュニケーションを取り続けられる大きな利点がある取組みだと感じています。

他にも、遠足などの校外学習で「今、○○に到着しました!」「みんなで△△をしました!」と写真とともに児童・生徒の様子を保護者に配信する活用をしている教員もいました。家庭の中では見ることができない児童・生徒の表情が見られ、保護者にとっては嬉しい企画ですよね。

児童・生徒の学びの進捗を確認でき、適切なサポートが可能となる

スクールタクトのワードクラウド機能(サンプル画面)スクールタクトのワードクラウド機能
(サンプル画面)

導入コンテンツのうちスクールタクトはどのように活用していますか?

スクールタクトは、授業における協働学習支援ツールとして選択しました。最も優れていると感じる点は、ワークシートなどを配布し、一人一人の学習の進捗を確認しながら、教員が支援できることです。提出する前に児童・生徒がどう課題に取り組んでいるのかをリアルタイムで把握できるので、つまずきに対して適切なサポートができるという声をよく聞きます。

共同閲覧モードを使って、児童・生徒間で友達の回答や意見を見て学び合う活動をしている教員もいます。クラスメイトのアウトプットを見ることで、自分の学びを深めるヒントを得たり、異なる意見の重要性に気付いたりすることができると考えています。また、ワードクラウドを用いて、特徴的な言葉を抽出し、学びを広げる機会としている教員もいました。

さらに、授業時間を効果的に運用できるようになったという声もあります。英語は、話したり、聞いたりといったアウトプットする時間を確保することが重要な学習コンテンツです。スクールタクトを活用することで、プリントの配布や回収などがなくなり、授業時間を効率的に使うことができるようになったとの声もあります。

活用シーンの拡大により、まなびポケットの重要性は増す

活用シーンの拡大により、まなびポケットの重要性は増す

今後の展望を教えてください。

今後は、CBT(Computer Based Testing)を活用した調査の実施やビックデータの活用、デジタル教科書の本格導入などを控えており、まだまだまなびポケットを経由した活用が広がって行くことが推測されます。それにより学習eポータル※としてのまなびポケットの役割は、重要性を増していくと考えています。

一方で、現時点では、まだ教員ごとにICT機器の活用頻度や活用方法にバラつきが見られます。
教育委員会としては、新たな機能やソフトウエアの活用のフォローも含めて、研修の実施はもちろん、エバンジェリストや教育情報化推進員と協力しながら、教員がICTを効果的に活用したより多様な授業を展開できるようサポートを拡充していきたいと考えています。

※文部科学省が推進する日本の初等中等教育向けの学習管理機能を備えたソフトウエアシステムのこと。

北区教育委員会