ScTN Viewで「主体的・対話的で深い学び」の達成度をデータ化〜授業改善のきっかけに

鹿児島市教育委員会では、「主体的・対話的で深い学び」の実現状況を測る指標として「ScTN(スクタン)質問紙」を利用し、その調査結果の閲覧と分析にまなびポケットが提供する「ScTN view」を使用しています。鹿児島市教育委員会 学校ICT推進センター 木田博氏に、ScTN viewの導入の背景やその効果、市立錦江台小学校で行っている活用についてお話を聞きました。

ScTN質問紙、ScTN viewとは?
ScTN質問紙は、一般社団法人School Transformation Networking(ScTN)が提供・管理する「主体的・対話的で深い学びのための意識・実態調査質問紙」です。同法人理事で熊本大学教育学部准教授の苫野一徳氏が提唱する教育哲学の知見に基づいて開発され、「主体的・対話的で深い学び」の実現状況を、「学びに向かう力」と「人間性」の育成状況と関連付けて把握できます。ScTN質問紙は、文部科学省のCBTシステムであるMEXCBTで提供されていて、学習eポータルまなびポケットでは、その回答を可視化する「ScTN view」を開発し提供。まなびポケットのユーザーはScTN viewを無料で使用できます。

鹿児島市教育委員会 学校ICT推進センター 木田博氏
鹿児島市教育委員会 学校ICT推進センター 木田博氏

教育委員会名
鹿児島市教育委員会
所在地
鹿児島県鹿児島市
市内学校数
小学校78校
中学校39校
まなびポケット利用コンテンツ
ScTN view、BANSHOT、eboard、MEXCBT、navima 、NHK for school
インタビュー対象者
鹿児島市教育委員会 学校ICT推進センター 木田博氏

非認知能力を測る指標として期待

ScTN質問紙の活用を始めた決め手について教えてください。

学習指導要領では、育成する資質・能力の柱として、「知識及び技能」「思考力、判断力、表現力など」「学びに向かう力、人間性など」の3つを掲げています。そして、これらを育むために「主体的・対話的で深い学び」を実現することが重要だと言っています。

ところが、学力が語られるときには、ほぼ「知識、技能」でしか語られません。なぜかといえば、「知識、技能」が点数で一番可視化しやすく、比較しやすいからですよね。3つの要素をバランスよく考えていかなければいけないのに、非認知能力の部分をどうやって見るのかというのが課題になっていました。「主体的・対話的で深い学び」についても、これができているのかどうか、自分たちの主観による評価しかできなかったんですね。

ScTN質問紙は、これらをきちっとした学問の裏付けがある指標で見ることができるので、“これだ!”と思いました。

「主体的・対話的で深い学び」を実現できているかどうか数値化することでどんな効果が期待できますか?

これによって、学びが変わると思うんです。授業が変わる。例えば、先生が自分は教える知識やスキルがあってうまい授業を出来ていると思っていても、実は子ども達からしてみると、「自分達が学んでいる」という気にはなっていないということがScTN質問紙でわかるかもしれません。仮にクラスの成績が良くても、実は一方的な教え込みの授業にしかなっていなかったということに先生自身が気づくことができるのではないかと思うんですね。

1人1台のタブレットが整備されて子どもを取り巻く環境は大きく変わっていますが、それに対して、授業自体が変わったとは言い難い面があります。タブレットが、先生が効率よく子ども達に知識を詰め込む道具にしかなっていないのではないかという思いがありました。学習者中心の、「主体的・対話的で深い学び」に変わらなければいけないのに、なかなかそこに移行しない。環境が大きく変わったなら当然学びも大きく変わるべきなんです。

授業を変革する大きなきっかけになる

先生方が評価をされるような感覚になるという心配はありませんでしたか?

おそらくあまり気持ちのいいものではないですよね。自分はできていると思っていたけれど、子ども達はそう思ってなかったということがわかるのは、ヒリヒリするものです。でも、先生はみんな「いい授業をしたい」「子ども達のためになる授業をしたい」「子ども達の資質・能力を育成したい」と思っていて、そのために何ができるかということを一生懸命考えています。

何が足りないのかが見えづらいと、同じ授業を繰り返してしまいがちですが、「この部分が足りないんだ」ということが明らかになれば、「じゃあ次はここを工夫してみようか」とかいろいろ考えるわけですね。もし、「対話的な学びができていない」と子ども達が感じているなら、もっと話し合う場を設定しようとか、対話する課題が重要だったのではないかとか。そうやって、授業はどんどん改善されていくと思うんですよ。ScTN質問紙が、先生たちが考える大きなきっかけになっていくのではないかと思います。

実際にScTN質問紙を使った先生からは、結果を見るのは怖かったけれど、何を重点化して指導改善していけば良いか明確になったことは非常に有効だったと聞いています。いろいろな授業を試してScTN質問紙の結果を比較することで、子ども達にとって「主体的で対話的で深い学び」だと感じられる授業がどのようなものなのかということが、先生の経験の中で選別されて残っていくようになるのではないかと思います。

ScTN質問紙の結果を見られるScTN viewのメリットはどのようなところにありますか?

学校はさまざまなアンケートを行いますが、アンケートを作って、回収して、それを集計して分析するという一連の作業は、回数が増えれば先生方の負担になります。アンケートは変容を見るためには定期的に実施することが大事ですが、やればやるほど負担になり、結局あまり使われなくなるという負のスパイラルに陥りがちです。

その点、このScTN viewは、子ども達が端末からMEXCBTのScTN質問紙に回答するだけで、自動的に集計、分析されて結果が見られるので負担になりません。集計作業は先生がしなくても良いことで、コンピューターに任せればいいんです。結果の分析も、個別、学級別はもちろん、学校全体、市全体でも見ることができます。非常に大きなメリットですね。

毎日時間がない先生が、子ども達に授業の自己評価アンケートを書かせて集計して集約して役立てるというのは現実的ではありませんが、ScTN viewならば、授業評価がしやすくなると思うんですね。授業評価しやすければ、自己評価しやすく、次の授業改善に向かいやすくなると思います。

ScTN viewは、まなびポケットのダッシュボードの中にあるんですよね。そうするとパッと目に入るので、「あれ、今少し上がっているな」とか、ちょっと詳しく見てみようというきっかけになるような気がするんですね。先生方は忙しくてわざわざ毎回見にいくっていうことができないので、学習eポータルとの連携で活用していくっていうのは非常に意味があると思います。

ScTN質問紙・ScTN viewで授業が変わり子ども達が変わった

いち早く導入した錦江台小学校ではどのようにScTN質問紙・ScTN viewを活用していますか? 質問項目数の異なるアドバンスパッケージ、ベーシックパッケージ、ライトパッケージの使い分けはどのようにしているのでしょうか。

2023年7月に錦江台小学校の5年生で活用を始め、まず初めに最も項目の多いScTN アドバンスパッケージを実施しています。2学期は自由進度学習を導入した算数と社会で単元の終わりにライトパッケージを実施して授業ごとの変化を見ました。3学期はベーシックパッケージを実施して終了の予定です。

自由進度学習の様子はいかがですか?

自由進度学習は、少しずつ自由の部分を広げていくプロセスが大事で、拙速に形だけ真似してもうまくいくものではないと考えています。学年によっても段階的に行う必要があります。錦江台小学校の5年生の先生方はとてもうまく実現していて、私も授業と子ども達の姿を見て、これからの子ども達に必要な学びだと強く感じました。

例えばある子が、算数の時間に平行四辺形の求め方の動画を自分で作っていたんです。その子は、平行四辺形の求め方を誰かに説明できるようにするという目標を立てていたわけですね。自分で説明動画を作る子なんて、これまでの授業だと絶対に出てきません。自由進度学習で時間と場が与えられたら、子ども達はどんどん違うアイデアを出してどんどん違う学びを発見して実現していくんだなと感じました。

これまでは、どうやって問題解決をしていくかということを先生が全部教えてくれたわけです。でもVUCAの時代と言われるこれから、最適解すらないような時代に子ども自身が納得解を見つけられる力、問題解決をする力をつけなければいけない。一斉授業で面白い授業ができても子ども達の問題解決の力につながるかというと、そこまで出来ないような気がするんです。今までの授業技術も生かしつつ、子ども自身が問題解決していくのをサポートする方向にシフトする必要があります。

これまで通りの授業と、自由進度のように子ども達に委ねるエリアを大きくした授業の子ども達の受け止め方の違いがScTN viewを通してデータとして見えれば、先生方が授業について考えるきっかけになるのではないかと思っています。

市内での実施と効果の広がりに期待

今後どのように活用していく予定ですか?

まず、市の校長会等でScTN質問紙・ScTN viewを紹介して、「主体的・対話的で深い学び」の実現を測る指標になるということを説明したいと思います。教育委員会として一斉に進めるというよりも、校長先生に学校運営に有効であることを伝えていきます。

MEXCBTからすぐに受検できるということもポイントです。今後、全国学力・学習状況調査等のCBT(Computer Based Testing)化も検討されているので、MEXCBTのCBTに子ども達が慣れておくという観点でも大事です。

また、ScTN質問紙の質問内容は、学びはこうあった方がいいという項目なんですよね。子ども達がそれに回答して、先生達がその評価を見るということを繰り返しているうちに、子どもも先生もいつの間にかこれからの学びに必要なことを理解して、学びが子ども達自身のものになっていくのではないかと思います。

テストの平均点ではなく、ScTN質問紙で子どもたちの評価が高い授業がどのようなものなのかということに注目が集まり、見学したり分析したりするきっかけになって学びの変革が広がっていくのではないかと期待しています。

木田先生のお話からは、ScTN質問紙とScTN viewが授業変革の大きなきっかけになる可能性が伝わってきました。錦江台小学校の先生方のお話はこちらのレポートで紹介していますのでご覧ください。