津軽の中核都市による「一人一台」授業への挑戦

青森県弘前市。2017年4月にNTTコミュニケーションズと「ひろさき地方創生パートナー企業」協定を締結し、市内3小学校(※)を対象に「次世代のひろさき ICT 活用教育チャレンジプロジェクト」を行ってきた。授業づくり・授業改善を目的とした、まなびポケットなどICTの活用について、教育委員会事務局と学校現場のそれぞれからお話を伺った。
※高杉小学校、千年小学校、文京小学校の3校が対象となっている。
「ひろさき地方創生パートナー企業」協定の詳細

弘前市教育委員会:<br />
奈良岡淳 理事兼学校教育推進監
弘前市教育委員会:
奈良岡淳 理事兼学校教育推進監

取材先
弘前市教育委員会、弘前市立千年小学校
所在地
青森県弘前市
市立小・中学校数
全51校
まなびポケット利用コンテンツ
schoolTakt、eboard
インタビュー対象者
・弘前市教育委員会事務局:
奈良岡淳 理事兼学校教育推進監、学校づくり推進課 竹内元気主事
・弘前市立千年小学校:
奈良充生校長、村田真紀子教諭、小笠原蓮教諭

「授業づくり・授業改善」のためのICT活用を

弘前市教育委員会 学校づくり推進課:改革推進係 竹内元気主事
弘前市教育委員会 学校づくり推進課:
改革推進係 竹内元気主事

現在の弘前市のICT環境について教えてください。

竹内氏:弘前市では、実物投影機・電子黒板機能付きプロジェクター・教師用タブレット(および校内無線LAN)を「弘前式」ICT3点セットとして、市内の実践研究モデル校4校に整備しています。また、寄附により市内の小・中併設校1校にも同様に整備しました。その他の学校は、モデル校の実践から実物投影機・電子黒板機能付きプロジェクターを学級数の3分の1の割合で整備をしました。また、インクルーシブ教育のためのタブレットが各校にあります。さらに、「次世代のひろさきICT活用教育チャレンジプロジェクト」のモデル校では、授業の形式に応じて、児童が一人一台のタブレットを使えるハードとソフトの環境ができていますね。まなびポケットについては、「次世代のひろさき ICT 活用教育チャレンジプロジェクト」のモデル校の3校で利用していました。

「弘前式」や「インクルーシブ教育」「次世代のひろさき ICT 活用教育チャレンジプロジェクト」など、ICTの活用に関連したいくつかのキーワードがありますね。

竹内氏:これらのベースには、弘前市が取り組む「授業づくり・授業改善」が大きな目的としてあります。それを実現する手段として、これらのプロジェクトが位置づけられているイメージです。ICTを使うことによって、直接的に学力向上を目指すというよりも、子どもたち一人一人が本来持っている力を引き出すことを、重点的に捉えていますね。また、現在ICTの活用による教育効果の測定にも取り組んでいます。

具体的に、どのように効果測定をしているのでしょうか。

竹内氏:定量と定性の両面から、効果測定を試みています。例えば、ICTに対する先生の意識の変容や、ICTが授業で使われた回数などは、アンケートなどで把握しつつ、実際に現場から出てくる先生方の意見を集め様々な教育効果について整理をしています。先生による実物投影機・電子黒板機能付きプロジェクターを使った課題や注目点を大きく映す画面提示は、すでに効果があるとの声が出てきていますが、子どもたちの思考力や発表力向上に対しても、ICTの活用がどのように寄与できるか分析を進めていますね。これらの分析結果をもとに、より効果的に来年度以降、ICTの整備を進めていきたいと考えています。

ICT活用による学校現場の変化

弘前市立高杉小学校の様子
▲弘前市立高杉小学校の様子。
 算数の掛け算の授業で、お互いの計算の仕方を共有している。

弘前市立文京小学校の様子
▲弘前市立文京小学校の様子。
 理科の授業で、実験の流れの確認をしている。

「次世代のひろさき ICT 活用教育チャレンジプロジェクト」などICT活用が進む中で、どのような点を大切に捉えていますか?

奈良岡氏:まずは、ICTを使ってみることですね。もともとICTに馴染みのなかった学校では、授業のどの部分をデジタル化し、どの部分はアナログの方が良いのか、というような議論が出てくることがあるかと思います。私の考えとしては、まずはICTを使い倒した上で、徐々に最適なバランスを見つけていく方が良いように感じていますね。準備を万端にしてからICTを使い始めるというよりも、実際にICT使ってみる中で、徐々に活用シーンを定めていこうという考え方です。また、弘前市では、インクルーシブ教育を推進しており、合理的配慮に基づく授業のユニバーサルデザインを大切にしていますが、タブレットを使うことによって、より視覚的にも説得力のある教育ができるようになっています。

ICTの活用によって、学校現場ではどのような変化があったのでしょうか。

竹内氏:例えば、「次世代のひろさき ICT 活用教育チャレンジプロジェクト」のモデル校では、まなびポケットなどICTを活用した授業の実践に取り組んでもらいました。この中で特徴的だった出来事として、もともとICTの活用があまり得意ではなかった先生が、ICTの活用にチャレンジしてみた結果、「こういう授業も、ICTを使ってできるかな」と自ら活用方法を考えてくださるようになったことがありました。先生たちは、もともと自分の授業の型を持っていますし、ICTがなくとも良い授業をすることはできます。それでも、何かのきっかけでICTを活用してみることで、それが一つの成功体験となり、さらに活用が進んでいく様子を感じ取ることができました。「次世代のひろさき ICT 活用教育チャレンジプロジェクト」によって、弘前市においても「一人一台」形式の授業が行えることが、はっきり分かったと思います。

子どもたちの効果については、いかがですか。

竹内氏:具体的な例として、なかなか人前で発表出来ない児童が、大勢の大人が集まった公開授業で、しっかりと発表したケースがありました。これはICT活用による効果として、一つの分かり易い事例だと思いますね。タブレットやソフトウェアがツールとして機能することによって、子どもたちの主体性を自然に引き出すことができていると思います。

学校でのまなびポケット活用状況を、学校まで行かずに確認できた

まなびポケットは、どのように活用されましたか。

竹内氏:モデル校では、schoolTaktを使った授業が行われていました。もともとICTの活用に積極的でなかった先生でも上手に授業で活用できていたので、直感的に授業で使うことができるサービスだったのだと思います。また、schoolTaktを含めたまなびポケットが、学校でどの程度使われているのかを、管理者用のアカウント画面から、簡単に確認することができました。現在取組を進めている教育効果の測定でも、定量的に確認できる情報というのは重要な要素です。学校まで見に行かなくても学校現場の様子を確認できたことは、クラウドサービスであるまなびポケットの良さだと思います。また、児童情報の編集などもまなびポケット上で行えますので、利用する学校数がさらに増えた時には、その利便性をさらに感じることとなるかと思います。

「次世代のひろさき ICT 活用教育チャレンジプロジェクト」を踏まえた、弘前市の今後の方針について教えてください。

奈良岡氏:「次世代のひろさき ICT 活用教育チャレンジプロジェクト」で行った取り組みを、どのように市内の全校に波及していくかを考えていかなければなりません。弘前市の場合は、小中学校を合わせて約50校の学校数がありますので、もちろん全校に展開していくにあたっては、財政面などの難しさもあります。ただ、公教育である以上は、全校への環境整備も考えていかなければならないと思っています。モデル校での効果検証で見えてきたこと、各校が求めていることを整理した上で、展開できる形を見極めて、今後も取組みを拡大していきたいと考えています。

モデル校から見たICTの活用とは

弘前市立千年小学校:奈良充生校長
弘前市立千年小学校:奈良充生校長

弘前市立千年小学校:小笠原蓮教諭(左)、村田真紀子教諭(右)
弘前市立千年小学校:
小笠原蓮教諭(左)、村田真紀子教諭(右)

弘前市立千年小学校は、「次世代のひろさきICT活用教育チャレンジプロジェクト」のモデル校として、ICT活用に取り組んで来られました。 ICT活用に関するお考えを教えてください。

奈良校長:まなびポケットを含めたICTが実際に活用されて改めて実感したこととしては、これからの時代を見据えると、やはりICTはなくてはならない学習のツールであるということですね。子どもたちも、意欲的に学習に取り組んできたと思います。ただ、それと同時に、子どもたちが情報機器を通して多くの情報に触れるからには、その情報を「編集」する能力と、本当に正しい情報を「判断」する能力、その両方を育てていくことの大切さについて、現在は再認識しています。まなびポケットなどのICTを学校で使ってみても、初めからタブレットの操作に慣れている子どもも多いので、操作自体にはあまり苦労している様子がありません。基本的なことではありますが、情報を「編集」と「判断」の能力を育むことによって、まなびポケットなどICTを活用するための土壌を、まずは作っていく。ICTの活用場面を見てきた中で、そうしたことを改めて感じています。

実際に、まなびポケットなどICTを活用された先生方としてはいかがですか。

弘前市立千年小学校の様子
▲弘前市立千年小学校の様子。
体育の授業で、投球フォームの確認に使われている。

村田先生:まなびポケットでは、スクールタクトが授業で使われました。まなびポケットはクラウドサービスですので、安定したインターネットの環境が必要とはなりますが、簡単にお互いの意見を共有できる点が、サービスの特徴だと思っています。

小笠原先生:私が関わった授業では、まなびポケットのポータルに、授業で使う動画のアップロードをするような使い方をしたこともあります。具体的には、体育の授業で投球フォームを撮影した動画を、まなびポケットに一時保存しましたね。クラウドサービスなので、共有の簡単さということはあると思います。

ありがとうございました。

(記事執筆・取材編集:関屋 雄真)