~県を越えてつながる市町村~
「東北の連携 ICT活用教育が生む絆」

 青森県弘前市と福島県新地町。共に、まなびポケットを利用している自治体である。
 福島県新地町教育委員会の伊藤指導主事は、2017年の4月以降に計3回、弘前市に足を運び、
新地町のICTを活用した授業づくりについて、弘前市の教職員向けに講演を行ってきた。
 新地町の先進的な取り組みを吸収する弘前市、自らの町の成果と課題を惜しみなく発信する新地町。それぞれが連携に込める思いについて、福島県新地町教育委員会の伊藤指導主事、連携の仕掛け人である、弘前市教育委員会学校づくり推進課改革推進係の竹内主事に話を伺った。また、弘前地区小学校視聴覚教育研究会において、会長を務める弘前市立裾野小学校の小山内校長先生に本インタビューの会場を提供頂き、参加して頂いた。

  • 伊藤寛氏
    新地町教育委員会教育総務課
    指導主事 伊藤寛氏
  • 竹内元気氏
    弘前市教育委員会学校づくり推進課
    改革推進係 竹内元気氏
  • 小山内剛氏
    弘前市立裾野小学校 校長
    弘前地区小学校視聴覚教育研究会会長
    小山内剛氏

新地町を「手本」にしたいと思った

弘前市と新地町が連携を行うようになったきっかけを教えてください。

竹内氏:

もともとは、こちらからお願いしたのがきっかけでした。

伊藤氏:

そういえば、なぜ新地町だったのですか?

竹内氏:

平成27年のあるセミナーで、伊藤先生がご講演されているのを聞いたことがありました。今回、まなびポケットを使ったタブレット活用をしようとした時に、どこか「手本」になるところが欲しいなと思っていました。そこで候補になったのが、まなびポケットと関連が深い総務省の実証事業で、実証地域となっていた3自治体(※)です。その中でも同じ東北地方ということ、以前にセミナーで聞いた伊藤先生のお話を思い出し、きっと弘前市の先生たちにも、しっかりと伝わるものがあるのではないかと思いました。そこで、NTT コミュニケーションズさんの紹介を受けて、ご連絡をさせてもらいましたね。連携というよりは、新地町の取り組みを自分たちの「手本」にしたいという思いでした。

※「先導的教育システム実証事業」。
 平成26年度~平成28年度の3年間を通し、佐賀県、荒川区、新地町の3地域で行われた。

いつ頃から、こうした取り組みをされているのですか?

竹内氏:

最初に弘前市に来ていただいたのは、2017年の4月に弘前市立文京小学校で行われた、教員向けの勉強会の時でしたね。まなびポケットを使ったタブレット活用についての勉強会です。その勉強会での、先生たちの評判がとても良かった。勉強会に出た先生はもちろん、来られなかった先生たちも、噂を聞いて「自分も話を聞きたい」と言っていたのですね。それを聞いて、どうにか、また来てもらうチャンスはないか、と。

小山内氏:

私自身も伊藤先生の話を聞いて、素晴らしいと思ったし、これからの弘前市の方向性が感じられたような気がしましたね。ちょうど、弘前地区小学校視聴覚研究会の研修会が近かったので、その時に、是非、また弘前市に来てくれないか、というお願いをしていました。

竹内氏:

それから、小学校視聴覚研究会に来ていただいたことも含めて、これまでに計3回も弘前市まで来てもらいました。また、それとは別に、新地町立新地小学校の先生にも1回来てもらっています。伊藤先生の話はもちろん、新地小学校の先生に現場の話をしてもらったことも、すごく先生方の評判が良かった。今までにはない反応でしたね。

小山内氏:

小学校視聴覚研究会の会員でない人まで、わざわざ話を聞きにくるような状況でした。

竹内氏:

本来、新地町の取り組みは、全国レベルの講演会などでお話されているような内容です。もし弘前市まで来てもらって、先生たちに直接話をしてもらえれば、それが弘前市にとって、財産になると思っています。

実証地域であることの「使命」

実証地域であることの「使命」

今回のように、他県の自治体に呼ばれて、足を運ぶことは普段からあるものですか?

伊藤氏:

企業や団体が主催のセミナーに呼ばれて講演することはある一方で、一つの市町村に呼ばれて、という経験は、新地町は少ないです。あったとしても福島県内。県外から、そうしたお声をいただく機会は、なかなかないですね。一方、弘前市へ来る上での、新地町としての考え方を持っています。新地町は、これまでに「ICT活用発表会(※)」を計7回行ってきましたが、もともとICTの活用を始めた当初のころに国の実証事業を受託しており、それ以降も、国の実証事業を受けてきています。そうすると、我々がおそらく国の目指す最先端のことをやっているので、それを広げなくてはいけないという使命を持っているのです。回線や機器のスペックについてのこと、ICTを使ってみての学力へ及ぼす影響のこと、そうしたことを実証事業の報告書には書いていますが、それを点から面へ広げていくことが、大きな使命だと思っています。なので、県内外の自治体から呼ばれた時には、基本的に断らない。それが新地町の考え方です。

※新地町の全4校の小中学校での公開授業。年に一度行われる。
  福島県内のみならず多方面から、教育委員会や教員など、大勢の人々が参加している。

「東日本はICTが遅れている」?

関東や東北という範囲で見て、なにか感じられていることはありますか?

伊藤氏:

数年前のあるセミナーで、「西日本はICTを盛んに使っているけど、東日本は遅れているよね」という言葉を、たまたま聞いたことがあります。それが、悔しかった。西日本でも東日本でも、教育に対する熱は変わらないし、東日本はICTが盛んではないかというと、そういうことでもないと思っていました。頑張っている先生は確かにいます。特に東北では、自らの取組みを積極的に表現する人が少ない地域性なのです。だから、新地町で目に見える結果を残そう。そう思って、ずっと頑張ってきました。そうした中で、弘前市から「一緒にやろう」と声をかけてくれたのは、すごく嬉しかったですね。少しずつ輪が広がっていって、「東北は、ICTを上手に使っているよね」と言われるようになりたいと思っています。

竹内氏:

パソコンの整備やタブレットの整備などは、行政の仕事として、どの自治体も当たり前のように行っていますが、西日本の自治体の方がその取組をしっかりと発信しているような気はします。ただ、例えば県内であっても、ある市は校務システムも無線LANの整備も頑張っていますし、弘前市でも参考とさせてもらっています。それでも、全国的にはそこまで有名にはなっていないのかもしれない。着実にICTをやっている自治体は県内でも少なくないですが、それを発信しているか、どうか。その違いだけで、ICTが進んでいる、進んでいない、と言われてしまうことには違和感があります。私たちは自ら発信までしていくことで、弘前市を皮切りとして「青森県の自治体も頑張っている」と言われるように、広げていければと思っています。

伊藤氏:

東北で、ほかにICTを頑張っている自治体はいくつもあります。例えば、山形県のある自治体では、校務支援システムに力を入れていて、新地町としても、参考にさせてもらいました。また、秋田県のある自治体では、ICT支援員の重要性を新地町と同様に発信しています。色んな市町村が、それぞれの得意な分野で、連携できればいいなと考えています。それを、弘前市と新地町が自ら表に出ていくことで、きちんとアピールしていき、広がっていけばいいと思っています。

津軽の中心地として

青森県という単位で見て、今回の取組みを通して考えていることはありますか?

竹内氏:

弘前市は、津軽圏域の中心地に位置していますので、弘前市が何をどうやっているかというのは、周辺の自治体に広がっていくことがあります。新地町からもらっているエッセンスを、着実に取り入れて、それを着実に実践していく。その上で、公開授業などを通して発信もしていく。自ら広げようとしなくとも、結果として、それが広がっていくのではないかな、と。また、青森県は南部と津軽の2つに大きく分かれています。南部だと、八戸市の取り組みが広がっていきますし、津軽だと、自分たちの弘前市の取り組みが広がっていくかと思っています。それから真ん中には、県庁所在地の青森市もあります。この三市が中心となって、情報交換などもしながら、青森県全体としてICTの活用が進んでいければいいな、と思っています。

生の授業を見て、熱量を感じてもらいたい

他の自治体から問い合わせをもらうことで、負担となることはないのですか?

伊藤氏:

できれば、ICT活用発表会を見に来てほしいなと思っています。それは、負担がどうということではなく、生の授業風景を見てもらうことが、現場の熱量も伝わるし、何より一番良いと思っているからです。私が、どこかでプレゼンをする時には、よく理解していただくためにも、授業の動画をご覧いただくようにしています。でも、きっと人は自分の目で生で見た方が信じられるし、動画だけでは伝わらないものがあると思いますね。もしICT活用発表会の日程が合わない時には、視察に来てほしいと思っています。もちろん受け入れ側の学校のご負担もありますので、実施できるかどうかは相談させていただきますが、直接見てもらうことは大切だと思っています。

竹内氏:

ご要望が、ICTの整備の話なのか、活用の話なのかによって、行政の私が担当をするのか、指導主事が担当するのか、そのあたりの役割分担の話はあります。整備の話であれば、日程さえあえば、私の方で対応は可能ですね。授業を見たいということであれば、やはりまずは、公開授業を直接見に来てもらえれば。何か問い合わせを受ける分には、私は、ウェルカムです。弘前市は、弘前公園など観光地もたくさんあります。せっかくなので、出来れば泊まって頂けると嬉しいです。(笑)

インフルエンサーを作りたい

新地町の取り組みを聞き、実際にICTの活用が進む中で、現場の先生方に変化などはありましたか?

竹内氏:

モデル校での公開授業が、今までの弘前市ではなかった、タブレットが一人一台の環境である授業でした。まなびポケット上のスクールタクトを使った、先生と児童の双方向の授業です。それを見て、ショックを受けた先生が、いらっしゃったことは聞いています。もう時代の流れはここまで来ているのか、ということを実感した瞬間だったとのことで、実際にICTをやりたいという先生も、授業の後には、何名か出てきました。ここは先生にしか分からない感覚のところですが、今後、こういうことをやっていく時代になるのだな、と自分たちの置かれている状況が、どう変化していくのかを感じとった先生たちが多かったようです。若い先生やICTで有名な先生でなく、普段、一緒に授業を行っているような先生がチャレンジしたことが、周りの先生たちには響いたようです。

小山内氏:

ICTが得意な先生がそうした授業を行っていたら、その先生だから、の一言で終わってしまっていたかと思います。ある意味で、普通の先生だったからこそ、というのはありますね。

竹内氏:

今回のスタートは、2017年4月の伊藤先生のご講演から始まっていますが、それ以降、何度も新地町から弘前市に来てもらって、お話をしてもらったことで、授業改善や授業づくりという目的に対して、ICTがフィットするようになってきています。伊藤先生の話を参考として、モデル校では授業を計画していますが、その授業を見て、モデル校以外の先生も「私もこれをやりたい」と言ってくださることがありました。それは、子供たちの反応を見て、先生自身がピン来るものがあったようです。私は時々、「インフルエンサーを作りたい」と言うのですが、インフルエンサーとなりそうな先生に、ある意味の衝撃を与えることが重要だと思っています。ICTをやってきた先生はさらにやりたいと、今までICTをやっていなかった先生は自分にもできそうだと思ってもらえる、そうした相乗効果が大切で、その踏み出すきっかけが必要だったのだな、と今となっては感じています。

ありがとうございました。

(記事執筆・取材編集:関屋 雄真)