これからの「個別学習」と教員の役割とは

福岡県田川郡福智町立金田中学校。かつて炭鉱で栄えた福岡県筑豊地区にある学校だ。NPO 法人Teach For Japan(※)のフェローとして赴任し、授業においてまなびポケットのeboardを積極的に活用している風間亮先生に、今回お話を伺った。
※NPO法人Teach For Japan

風間亮先生
風間亮先生

学校名
福岡県田川郡福智町立金田中学校
所在地
福岡県田川郡福智町
全児童・生徒数
222人
まなびポケット利用コンテンツ
eboard
インタビュー対象者
風間亮先生

 

児童・生徒が自ら目標を設定し、個別学習を進めていく

まなびポケットは「まなポケ」と呼ばれている

▲まなびポケットは「まなポケ」と呼ばれている

まなびポケットは、普段どのようなシーンで使われていますか?

英語の受業において、まなびポケットにあるドリル教材のeboardを使用しています。
私が担当している二年生のクラスでは、二学期までに教科書の内容は一通り終わらせて、三学期はすべて復習の時間として、年間指導計画を立てています。三学期に行う復習の時間では、eboardを使うことをベースとして授業を組み立てていますね。

なぜeboardを使われているのでしょうか。

法人Teach For Japan(※)のフェローとして赴任し、授業においてまなびポケットのeboardを積極的に活用している風間亮先生に、今回お話を伺った。
NPO法人Teach For Japan

eboardを使うことで、生徒一人一人が自らの理解度に合った内容を、幅広い学習単元の中から選んで、勉強することができます。例えば、eboardなどのICTを用いない通常の授業でも、その授業ごとに扱う単元を私の方で指定した上で、理解度の高い生徒は英作文に取り組み、そうでない生徒は回答が選択形式の問題に取り組むような学習を行うことも、授業の方法としてはあると思います。ただその方法を取った場合、そもそもその単元より手前の部分で生徒が理解しきれていないことがあった場合、生徒は何となく理解できた気がしてしまうものの、実は深い理解まで到達できていないということが起こりえます。それがeboardを使うことによって、理解が十分でない生徒は一年生の単元の内容に立ち返って学習をし、逆に理解が進んでいる生徒の場合は、先に三年生の内容を勉強することができるようになっています。生徒が自らの到達度を把握した上で、各々に適した目標設定を行い、それに向けて学ぶための手段として、eboardは有効に感じています。

学習内容の目標設定は、児童・生徒自身が行っているのですね。

私の場合は、そうしています。先生の方で生徒の目標設定を立てている場合でも、実は生徒自身が自ら目標を立てたいと思っていることは、きっと少なくないと思いますね。むしろ、生徒自身が自ら目標設定をし、自ら学びを進めていくことにこそ価値があると感じます。一斉学習形式の授業ももちろん行っていますが、その時の生徒は、話を聞いているようでもぼーっとしていたり、脳がアクティブとなっていないことも、実はあると思っています。それが生徒主体の個別学習であれば、生徒が自らの頭で考えて学びを進めていくことができます。

紙でなく、ICTだからこそ

紙でなく、ICTだからこそ

紙で行うドリル学習と比べると、いかがでしょうか。

あえてeboardのようなICTを使う理由としては、先生としての観点と生徒としての観点の両面で、それぞれ良さがあります。
まず先生の場合ですが、一番は手間がかからないことですね。先ほどお話したような一年生から三年生までの幅広い学習単元のドリル教材を準備しようと思うと、先生はどうしてもその用意に手間がかかってしまいます。オリジナルでなく、学校で購入している紙のドリル教材を使うという選択肢もあるのですが、私の場合、それはすでに二学期までの授業において一度生徒は問題を解いてしまっています。感覚的に答えを覚えてしまっていることも多いので、同じ問題を繰り返し授業で使うことは、難しさがありますね。
次に生徒の場合です。単純にデジタルで学ぶことの楽しさと、eboardの機能としての良さの二つがあるかと思っています。紙でなくデジタルで学ぶことの楽しさについては、意外と生徒たち良い影響を及ぼしています。紙形式であれば、なかなか手が進まないような生徒であっても、それがPC上で行うことで、自ら進んで学習をしてくれることがあります。また、eboardの機能として、自分が学習し終わった内容が分かり易く表示される仕組みとなっているので、生徒たちの達成感を高めているようにも感じています。

これからの「個別学習」と教職員の役割

児童・生徒主体の個別学習において、教職員の役割はどのようなものになるのでしょうか。

私個人の考えとしては、主に三つのことに集約されるかと思っています。生徒たちの理解度と進捗を確認すること、疑問点に答えてあげること、そしてモチベーションを向上させてあげることです。
一つ目の生徒たちの理解度と進捗を確認することについては、生徒が自ら立てた目標に対して、「もっとここまで勉強してみよう」や「ここももう少し丁寧に勉強してみよう」など、客観的に見たフィードバックを伝えることを意識しています。二つ目の疑問点に答えてあげることは、どんな授業でも基本的に行われることかと思います。私が一番大事だと思っていることは、三つ目のモチベーションの向上ですね。これについては、特に意識を持って生徒たちと接するようにしています。

「個別学習」とは表現されますが、児童・生徒に寄り添うモチベーターとしての役割が、教職員は重要になるのですね。

eboardを使った学習を行うことで、教材作成など様々な作業が効率化でき、より生徒一人一人と向き合う時間を確保できるようになると感じています。その「余った時間」を、生徒に対してモチベートする時間に振り向けることが、大切ではないかと思っています。そもそも、生徒が知識をつけるための勉強は、インターネットやICTの発達によって、教員自身が教えるという行為を取らなくても、ある程度は担保できるようになりつつあると思います。もちろん、今使っているeboardもそうした手段の一つです。

これからの「個別学習」と教職員の役割

世の中ではアクティブラーニングという表現が広く使われていますが、その中で個別学習の在り方も、教職員の役割も、従来とは変わってきていますね。

そうですね。ただ、これも私個人の意見ではありますが、アクティブラーニングと呼ばれる授業においても、知識の習得と協働的な学びについては、切り分けて考えていった方が良いと考えています。例えば、数学の公式や英語の文法など、初めから答えや型が決まっている問いに対して協働していくことも、そのプロセス自体には、一定の価値があるとは思います。ただ、本来は答えがない問いに対して協働していくことの方が、より社会の実態に合っているように感じています。例えば、実際の社会人生活を想像してみると分かり易いですね。何か分からないことがあった時には、インターネットで検索してしまえば、もう答えがすぐに見つかる状態となっています。つまり、インプットの段階においては、協働ではなく個人の作業に閉じていることが多いはずです。それを会議の場などにおいて、初めてアウトプットしていく、つまり協働していくことになるのだと思います。
現代社会の営みがそうなっている以上は、学校においても同じようにあるべきだというのが私の考え方の基本ですね。実際は、この知識の習得と協働が混在したまま、アクティブラーニングとまとめて表現されてしまうケースが少なくないように感じています。この混在に対する「切り分け」を行う際に、知識の習得の手段として、eboardは有効だと考えています。

ありがとうございました。

(記事執筆・取材編集:関屋 雄真)