2021年4月にタブレットの配布が完了し、まなびポケットの保護者向け機能や、教職員、児童とのコミュニケーション機能の活用、複数の学習コンテンツを利用するなど、日常的にICT活用をしている東京都北区立第四岩淵小学校。日常活用の秘訣やデジタル化のメリットについて、同校でICT活用を推進している須賀謙介先生と牧野和夫先生にお話を伺いました。
はじめに、タブレット配布から現在までのICT活用状況について教えてください。
須賀:本校では2021年4月末に全家庭のタブレット配布が完了しました。当時は新型コロナウイルスの感染がいつまた広がるか分からない状況でしたので、感染が拡大した際に、すぐにオンライン授業に切り替えられるようできるだけ早くICT環境を整えておく必要がありました。
タブレットの導入にあたっては、すでに日頃からICTを活用されていた牧野先生と一緒に進めていきました。オンライン授業になる可能性が差し迫っていた時期でしたので、まずはとにかく全員に配らなければと急いで準備を進めていきました。結局、そのときは杞憂に終わり、実際にオンライン授業になったのは今年(2022年)の初めでしたが、このときに環境を整えたことで、スムーズに切り替えられたと感じています。
現在は、まなびポケットの連絡機能で子供たちや保護者に日々の連絡を配信したり、授業で学習コンテンツを活用したりしています。
タブレット導入にあたり、特に重視したことは何ですか?
須賀:情報モラルの指導です。短い期間で端末準備を進めていったので、まずは北区から発行しているタブレットの使用上の注意事項や情報モラルについて書かれた「きたコン」※のリーフレットや本校独自の「ICT便り」を配布し、子供たちや保護者、教員の理解を促すようにしました。
インターネットやSNSの書き込みについて指導をするときに、「あなたが書いたその内容は、全世界に伝わってしまうんだよ。それがどんな影響を及ぼすか分かるかな?」というような教え方をすることが多いと思うのですが、子供たちにとって全世界という表現は非常に曖昧で、漠然としています。そこで、まなびポケットを情報モラル教育として活用してみることにしたのです。
まなびポケットには無償で利用できるメッセージ機能「チャンネル」機能があり、須賀先生はチャンネルを活用し情報モラル教育を実践されました。
※「きたコン」は、北区が貸与しているタブレット端末の名称。
まなびポケットの無償で利用できるメッセージ機能「チャンネル」機能を活用し、情報モラル教育を実践されたのですよね。
須賀:導入当初、子供たちのアカウントから全校共有のメッセージが送られるようになっていました。やはり、子供たちにはめずらしいものですから、最初のうちは誰が読んでいるかなど気にせずに、「みんな見てる?」と気軽にメッセージを送ったり、自分の気に入ったスタンプや画像を貼り付けたりして、遊ぶ子たちがいました。するとしばらくして、ある子供の書いたメッセージに対して、批判的なコメントが出てきました。
批判的なコメントを書いた子供には悪気はなく、無自覚にやってしまったことかもしれません。でも「そのコメントは批判された相手の子が目にするだけでなく、他の子も先生もお父さん、お母さんも読むんだよ。これをみんなに読まれていると思ったら、どう思う? これがSNSでメッセージを送るということなんだよ」と教えると、子供たちは「ああ、やってしまった!」とハッとするんです。全世界という表現ではピンと来なかったけれど、「他の子や先生、保護者も見ているんだよ」という伝え方をすると、イメージしやすいです。
こうした経験をさせることで、SNSの使い方や情報モラルの大切さを伝えていきました。まなびポケットは学校限定のプラットフォームなので、それを教えてあげるよい機会になりました。もちろん、教員からも指導はしますが、これをやってはいけない、あれをやってはいけないと禁止事項を並べるだけでなく、体験を得て学べたことは大きかったと感じています。
チャンネル機能を活用したクラス内のコミュニケーションのイメージ画像
第四岩淵小学校ではまなびポケットの無償で提供されている機能を使って、児童や保護者に日々の連絡をしているようですが、いつ頃から使い始めたのでしょうか?
須賀:コロナ禍において、子供たち、保護者とスムーズに連絡が取れるように、子供たち向けには「チャンネル」機能を、保護者には「連絡帳」機能を活用することになりました。まず、私や牧野先生の学級で始めました。
また、1年生を中心に低学年のクラスも早くから活用し始めました。低学年の場合、書く習慣を身に付けさせるために紙の連絡帳にも書かせるようにしていますが、子供たちの書き忘れや伝え忘れによって、保護者に連絡が届かないこともあります。このような課題を解決するために、まなびポケットの保護者連絡機能を活用することにしました。
日々の連絡を連絡帳機能で保護者に送るイメージ画像
活用にあたっては、教員、保護者からどんな声が上がりましたか?
須賀:最初のうちはプリントによるお知らせからデジタルに変わることで不安に感じる保護者もいらっしゃいました。そこで、保護者向けのICT便りで、連絡帳の見方や返信の仕方などを丁寧に伝えるようにしました。
少し強引にはなってしまうのですが、まずはやってみないと利便性は伝わらないと思い、始めてみることにしました。私の場合、毎日昼休みのほぼ決まった時間に、連絡事項と一緒にその日学校であったことや子供たちの様子を伝えるように心がけました。
それをくり返すことで、デジタルの連絡機能の信頼性を高めていこうと思いました。
子供たちが学校にいる時間に保護者に連絡を配信するメリットは、お子さんが家に帰って来たときに、「今日はこんなことをやったんだね。楽しかった?」と、おうちの人から学校に関する話題を出しやすくなることと、仕事をされている保護者も紙では帰宅後に確認するところ、リアルタイムに連絡が見られるということです。いつでもどこでも見られるというのがデジタルの良さだと思います。
教員にとってのメリットは、「既読」「未読」の表示によって保護者が連絡を読んだかどうかの確認ができることです。これがプリントや連絡帳ノートだと確認することができません。大事な連絡が伝わっていない場合には、こちらから直接声をかけて対応することができます。それが今一番重宝しています。
教職員が保護者の開封状況を確認できるイメージ画像(右下部分)
一方で、子供たち向けの連絡においては、高学年になると、やるべきことが増えてきます。例えば昼休みや掃除の時間の後に連絡帳を書かせるといったとき、素早く書ける子ならいいのですが、時間がかかってしまう子は休み時間が削られてしまいます。
子供たちにとって休み時間はとても大切で、それが削られてしまうのは問題です。ですから、私は授業も必ず45分で終わらせるようにしています。教員の都合で授業が5分延びたりしたら、子供たちとの信頼関係を築いていけないからです。そのくらい教員が時間を守ることは大切だと考えています。
その点において「チャンネル」機能を活用した子供たち向けの連絡のデジタル化は、時間を有効に使うことができます。私の場合、教員の業務負担を減らすという考えではなく、子供たちの大切な時間を守るために活用しています。
日々の連絡をチャンネル機能で担当クラスの児童に送るイメージ画像
授業では、まなびポケットの学習コンテンツは利用されていますか?
須賀:「北区学校ICTエバンジェリスト」の間で、「スクールタクトではこんなことができますよ」「こんな便利な機能がありますよ」という声をよく聞くようになりました。
北区学校ICTエバンジェリストとは、北区独自の取り組みで、2021年度から始まったものです。区内からICTに詳しい教員が12名選ばれ、複数の学校を月1回のペースでまわり、活用方法などを指導していきます。
私もそのメンバーの一人ですが、エバンジェリスト同士で、さまざまなコンテンツの活用法や活用事例の情報交換をしています。その情報を各エバンジェリストが学校の教員たちに伝えていきます。
牧野:6年生に歴史を教える際、ちょうどよいワークシートのサンプルがあったのをきっかけに、スクールタクトを使ってみることにしたのです。習った知識を整理していくもので、子供たちが書き進めていく様子がリアルに分かり、理解度の把握に役立ちました。
そのとき、どうしても落としてはいけないキーワードをピックアップするのにワードクラウド機能を使ってみたのですが、これが子供たちには好評でした。キーワードが瞬時に分かるというのが、他のコンテンツにはなかったので新鮮に感じたようです。
その後も、何かの課題について話し合いたいときや考えたいときの足がかりとして、よくワードクラウドを活用しています。子供たちの発言によって、キーワードがどんどん変化していくので、ライブ感があり、授業に活気が出るようになったと感じています。
近ごろは子供たちの方から「先生、スクールタクトを立ち上げて!これはワードクラウドで考えてみたい」とリクエストされることが増えています。複数のコンテンツを使うことで、自ら、学習方法を選べるようになったことは、大きな変化だと思います。
子供たちが考えるキーワードをワードクラウド機能で可視化することで、児童主体の授業に
タブレットを導入したことによって、授業のスタイルはどのように変わりましたか?
牧野:タブレット学習が始まった頃は、例えば何かを共有する際にもある程度の型があって、教員が授業をコントロールしていく面が大きかったのですが、複数のコンテンツを活用するようになってからは選択肢が広がり、子供たち自らが「今日はこういう授業だからこっちのアプリを使いたい」と意見を言うようになったことです。それによって、教員の役割が「コントロール」から「コーディネート」に変わってきていると感じています。
例えばワードクラウドでいくつかのキーワードが検出されて意見が分かれたときに、同じ考えのメンバー同士で議論を高めていくこともできるし、違う考えのメンバーと論破し合うこともできます。「じゃあ、今日はこういう方向で考えてみてはどうだろう」と教員が提案し、授業を進めていく。レールを引くというよりは、子供たちのリクエストが学習の狙いから離れないようにガードレールを引きながらコーディネートしていくイメージですね。
コーディネート側になると、クラス全体が見やすくなり、誰がどこまで進んでいて、誰がどこでつまずいているかが把握しやすくなりました。戸惑っている子がいたら、個々に声をかけてフォローができるようになったのも、大きなメリットですね。
とはいえ、授業中に40人全員に目を向けるのはなかなか難しいのが現状です。ですが、タブレットを使った授業は、ポートフォリオとして記録に残すことができます。
授業が終わった後に見返すことで、例えば算数なら「この子は式を立てることまではできていたんだな。でも、その後の計算で時間がかかってしまっているんだな」といったように、一人ひとりの理解度や頑張った形跡を見ることができるのは、デジタルの良さだと感じています。
タブレット導入から1年半が経ち、今ではどの先生もタブレットを活用しているようですね。どのようにして活用を広めていったのでしょうか?
須賀:本校は約250名で、北区の中でも小規模校になります。ダブレット導入の際には、まず私や牧野先生などICTに馴染みのある教員がいろいろなアプリを使ってみて、「これはこういう授業のときに使えそうだな」「これは便利な機能だな」と思ったら、他の教員に伝えていくようなミニ研修を重ねてきました。なので、特別に大がかりな研修は行っていません。
また、使っていく中で、分からないことや困ったことがあれば、その都度質問に答えていくようにしました。そのようにできたのは、教員総数15名ほどの小規模な学校だったからです。
また、子供たち同士では、高学年が低学年にタブレットやアプリの使い方を教えてあげるなど、学年を超えた学び合いの時間を設けました。小規模ならではの柔軟な対応ができたことが、活用拡大につながったのではないかと思っています。
ただ、私たちの知識にも限界があります。そんなときに他校のエバンジェリストの先生たちの情報がとても役立ちました。今は便利な学習コンテンツや学級運営アプリがたくさんあります。しかし、それを一人の教員が全部使いこなすことなど到底できません。
そこで、お互いにさまざまな便利な機能や事例を紹介し合うようにしています。気になったものがあれば、まずはやってみる。やってみて使い勝手が良かったり、「こんなことに使えそう」と思ったりしたら、他の教員にも教えてあげる。その積み重ねで、ここまでICTの活用を広げていくことができました。
校外・校内で教員同士が教え合う空気が生まれているのは、とても良いことだと感じています。これからも便利な機能や学習コンテンツがあったら、どんどん活用していきたいと思います。