岡山県津山市では、“学びの見える化”を目的に、ICTによる学習記録のデータ蓄積・分析に力を入れています。その一役を担ってくれると期待し導入したのがNTTコミュニケーションズが提供するクラウド型プラットフォーム「まなびポケット」です。現在はまなびポケット経由でMEXCBTを導入し、実証校には協働学習支援ツールやWEBQU、情報モラル教材などの学習コンテンツも導入、さらに6学校で保護者向け連絡機能を導入するなど、積極的に活用しています。導入後、教職員および児童生徒にどのような変化が見られたか、津山市教育委員会 教育総務課 企画総務係 河野潤氏にお話を伺いました。
まなびポケットを導入した経緯を教えてください。
津山市では、市独自の取り組みとして“学びの見える化”を目指しています。児童生徒の学習データや学校生活の記録を蓄積・分析することで、今後の授業に活かし、学習のつまずきなどを解消することが狙いです。こうした考えのもと、様々なデータの蓄積や分析に力をいれているまなびポケットが、さらに可能性を広げてくれるのではないかと期待し、導入を決めました。
これに加えて、複数の学習コンテンツが用意されていること、またそれらを一つのIDでシングルサインオンできることに魅力を感じました。学習コンテンツを立ち上げるごとにIDが異なると、それだけでログインに手間がかかり、授業時間を圧迫します。しかし、シングルサインオンなら、IDが1つなのでどの学習コンテンツを使ってもスムーズに授業が始められます。以上2つの理由からまなびポケットを導入しました。
津山市教育委員会 教育総務課 企画総務係 河野潤氏
津山市では小学校・中学校各1校ずつ2校がICT実証校に選ばれていますね。実証校ではどんな学習コンテンツを活用されていますか?
現在、実証校では心理アンケートツールの「WEBQU」、「コラボノートEX for まなびポケット」、「事例で学ぶNetモラル for まなびポケット」を活用しています。
その中で注目している学習コンテンツは何ですか?
児童生徒一人ひとりをきちんと把握するためには、学習の記録だけではなく、学校生活の部分もすくい上げることが重要だと感じています。そこで、児童生徒の学級満足度や心のケアの把握をするために「WEBQU」を活用しています。
以前は紙の「hyper-QU」を利用していましたが、児童生徒が悩みを抱えていても、その結果が出るまでに1カ月もの時間がかかってしまうという課題を抱えていました。それがデジタルによって、瞬時に分かるようになり、これは使わない手はないな、と。実際、実証校でやってみたときに、ほぼリアルタイムで結果が上がり「職員室から歓声の声が上がった」と現場の先生から報告があり、とても嬉しく思いました。早速、悩んでいる児童生徒のフォローができたようです。
WEBQUの画面(サンプル)
「コラボノートEX for まなびポケット」は、協同学習に有効な教材なので、授業中の調べ学習や意見交換、プレゼンテーションの場面で活用しています。「事例で学ぶNetモラル for まなびポケット」は、ネットモラルの指導時に活用したり、給食時に視聴したりしています。今はまだ実証校のみの導入となりますが、現場の先生の声を参考にしながら、今後は他校への導入も検討していきたいと考えています。
実証校では保護者向け連絡機能も活用されていると聞きました。導入された経緯を教えてください。
先ほどもお話しましが、まなびポケット導入の決め手は、本市が目指す“学びの見える化”に有効だと考えたからです。ですが、導入時に無償で使える保護者向け機能があることを知り、まずは実証校で使ってみようという話が上がりました。それまでその中学校では、朝の出欠連絡を教頭先生が電話で受け、それを紙に記録して担任の先生に伝えるとともに、職員室のホワイトボードにも残して全体把握を行っていました。つまり、2つの手間がかかっていたのです。それが保護者向け連絡機能を活用したことによって、朝の電話連絡が減少したのはもちろんのこと、各担任が教室でまなびポケットの画面を開けば、職員室に戻らなくても出欠が把握できるようになり、教頭先生をはじめ各教職員の業務改善に大きく役立っていると感じています。
保護者向け連絡機能を導入するにあたって、保護者の方からはどのような反応がありましたか?
初めて実証校の中学校で導入したときは、保護者の方からたくさん問い合わせが来るのではないかと予見していたのですが、実際は想定より少なく、すんなり受け入れられたという印象です。やはり、近頃は保護者の方もデジタルに慣れていらっしゃる方が多いのでしょう。むしろ、「今までは朝の忙しい時間に連絡をするのが大変だったのが、保護者向け連絡機能になって助かっている」という声が上がっています。
保護者向け連絡機能は、部活動の連絡でも活用しています。それまで、土日の部活動の出欠連絡は、学校の電話しか利用できず、生徒が急遽欠席する場合などの対応が課題となっていましたが、そうした問題も、保護者向け連絡機能を導入したことで、解消することができました。また、活動計画表などの配布物も添付機能で保護者に直接伝えることができ、連絡漏れの心配がなくなりました。このように、教員にとっても、保護者にとっても非常にメリットが大きいと感じています。
保護者向け連絡機能の出欠連絡詳細画面(サンプル)
実証校2校からスタートした保護者向け機能の活用は、「これは便利だからオススメ」「使わない手はない」といった先生たちの口コミによって評判が広まり、現在は新たに4校で導入が決まり、市内の小中学校6校で活用されています。これは私の個人的な願望ですが、令和5年度中に津山市全校で導入できたらいいなと考えています。
津山市の現在の課題は何ですか?
津山市のICT活用のステップは、①「端末操作に慣れる」、②「教師が学び方(端末を活用するタイミング)を決める」、③「児童生徒と共に学び方を決める」という3つのステージを岡山県の方針に沿って設定しています。
この中で最も重要なのは③の「児童生徒と共に学び方を決める」ことです。津山市では令和3年2月に全校の端末配布が完了し、ICTの活用を進めてきました。現在はステージ②の「教員が使うタイミングを選べるようになる」という段階であり、現場の先生のICT活用が段々と浸透してきましたが、次のステップである、児童生徒と共に学び方を決め、児童生徒が主体的にICTを活用することができる授業実践を浸透させていくことが一番の課題となっています。
参考:「岡山県版ICT機器授業活用1・2・3」
どのようにしてICTの活用を広めていますか?
ICTの活用を広めていくには、現場の先生の口コミが一番効果的だと感じています。教育委員会の私たちがツールの有効性を何度も伝えるより、現場の先生方の声を上手く伝え、共感を得る方が説得力があり、浸透しやすいと実感しています。だから、私はあえて自分から必要以上に「これはいいですよ」と言わないようにしています。(笑)現場の先生たちから、上手く口コミで伝わり、現場から「使ってみたい」という要望をいただくことが重要です。実際に使ってみた先生が「この機能はすごく便利ですよ。」「これを使ってみたら、子どもたちのためになるし、私たちの業務負担も軽減しますね。」と実感し、思わず他の先生に勧めたくなってしまうというのが一番理想の形です。そういう点では、実証校の先生たちの口コミから広まっていった保護者向け連絡機能は、うまくいった例の一つだと思います。
また、児童生徒の今後のICT活用については、教員及び児童生徒のICT活用頻度だけでなく、今後は、児童生徒自身がICTの効果的な活用機会をきちんと見定めることができる能力を身につけてほしいと考えています。「この調べ学習にはこの機能を使ったら便利そうだ」「この授業にはこの学習コンテンツを使ってみよう」など、児童生徒自らが学びの手段を自由に選べるようになることが理想です。これは、岡山県全体で目指しているICT活用の次のステージですね。そのためには、まずはいろいろな学習コンテンツがあることを知ってもらい、使ってもらうことが重要だと考えています。
最後に、今後まなびポケットに期待することがあれば教えてください。
「WEBQU」や「コラボノートEX for まなびポケット」など、まなびポケットに搭載されているすべての学習コンテンツを組み合わせたデータの蓄積・分析ができるようになるといいですね。さらに欲を言えば、全国や県の学力テストの結果など、多様な学習データが蓄積・分析できれば、まなびポケットによる学びの可視化が充実し、今後の授業改善等に活用できるのではないかと思います。
眼科に行けば眼科の記録、内科に行けば内科の記録はあるけれど、それだけではその人の健康状態は見えてきません。それと同じで学力記録も生活記録も、一部のコンテンツの情報だけではその人の本当の姿は見えてきません。すべてのコンテンツの情報が一括にまとめられ、分析できるようなシステムが構築できれば、もっと児童生徒一人ひとりに的確なアプローチができるのではないかと考えています。簡単なことではないと思いますが、まなびポケットならいつか実現できるのではないかと期待しています。